美しい住宅をつくる方法
これまで、住宅を150軒ほど設計してきた。いまさらながらに、ずいぶんたくさんの建て主との出会いがあり、また、たくさんの方に支えられて仕事をさせていただいたものだと思う。どの建て主の方も、それぞれにいろいろな考えを持っておられ、その要望を受けて無我夢中で設計に取り組んできた。
設計には正解というものがないが、最終的に何を基準にものを決めてきたかを振り返ってみると、第一に建て主の要望に沿うことに加え、、「いま設計している住宅に自分自身が住みたいか?」ということが、ひとつの判断基準になってきたように思う。
メディアにはさまざまな価値観の建築があふれているが、やはり自分の血の通ったものにするためには、自分自身が気に入らなくては、一歩も前には進めない。このように設計をしてきたが、自分自身もそれなりの年月の間に、若干価値観が変わってきている部分もあるかもしれない。
最近考えることは、「オーソドックス」なものをつくる難しさである。オーソドックスなものとは、単に普通のものではないと思う。奇をてらうことなく、素直なもの、ということであるが、やはりそこに、創造性であったり、先端性といったものが付加された、あたりまえを超えたものをつくりたい。「究極のオーソドックスな建築」がよいと思う。この本は、私の事務所の住宅作品を写真と拙文でまとめさせていただいたものだが、建物には、そのどちらによっても表現できない要素があると思う。快適な温熱環境であったり、扉が閉まるときの重厚な音であったり、さまざまな要素が重なり合って、満足のゆく建築ができる。今後もそんなことを考えながら、周囲の人とともによい建築をつくり続けてゆくことを、自分の生業にしたいと思う。