建築家とまちづくりのなかまたち


建築家とまちづくりのなかまたち

A.知粋館(ちすいかん)

世界初の3次元免震を組み込んだ建築である。設計は構造計画研究所とのコラボレートで、構造設計以外の部分を担当している。

免震装置は空気バネと積層ゴムを組み合わせたもので、従来の免震装置では対応が不可能な、縦揺れに対しても有効に作用するもので、構造計画研究所他、清水建設、カヤバシステムマシーナリーの共同開発による。

全体の構成は、1階がPS梁を使用した無柱空間で、現状は住居として使用するが、将来ワンルームとしての使用も可能な形状となっている。また、人工地盤に見立てた2階部分は、中央に通路を取り、そこからアプローチする6戸の独立性の高い住居を配置した。

共同住宅ではあるが、住戸としての独立性と開放性、何よりも「楽しんで住める」生活空間を意識した。

本計画は、国交省の「長期優良住宅先導事業」に採択され、構造躯体の耐久性、内装設備の維持、設備の更新などに対しても所定の性能を持たせる事をクリアーしている。

また、建物をより長く使い続けるために、住宅履歴管理「SMILEシステム」を採用し、建物の更新やメンテナンスを一元管理してゆく事を意図している。


B."MOMO"荻窪の集合住宅

敷地はJR荻窪駅の駅前商店街に面しており、1階部分を貸店舗、2,3階は貸室4戸、4,5階は建て主住居という全体構成となっている。

建物の構成上、また、隣接する建物の関係により、開口部が南北に限られるため、商店街に面にした南側に大きな開口部を設けた。そのため、騒音や他人の視線などから室内のプライバシーを守る必要があった。

今回使用したハニカムガラスは、複層ガラスの空気層にアルミのハニカムが組み込まれており、角度によって街路からの視線を遮るだけでなく、太陽光を乱反射してコントロールすることで室内の温熱環境の向上に寄与している。また同時に、この素材は光に当たると独特の輝きを放つため、建物のファサードとしてのアイデンティティーをつくり出している。

内部空間は、水回りの設備を集約させることで、個室部分を生活のしやすいシンプルな形状で広く確保した。また、階上の住宅部分は視界が開ける5階を主生活階として、明るくオープンな生活空間をつくりだしている。


C.稲田堤の家

郊外の住宅地に立地する、夫婦2人のための木造住宅である。

施主からは、使い込むことでその良さがいっそう引き立つ、「萩焼」のような建築をつくることを要望された。

全体の構成は、中央にデッキスペースを持つ中庭型の住宅で、プライバシーの確保に留意している。また、デッキに面した大型の木製ガラス引戸を壁の中に引き組むことで、屋外空間と室内空間が一体となる。空間のグラデーションという事を意識し、室内のような室外、室外のような室内といった、曖昧な空間を徐々につなげることで、奥行き感のある空間を創り、かつ様々な生活のシーンに対応させるようにした。

室内空間はスパイラル状につながるワンルーム空間で、住人がさまざまに展開するシークエンスを楽しみながら生活できるようにした。

また、室内の仕上げは、極力自然素材を採用し、また、緑と建築を一体的に組み合わせる事で、健康的でアメニティーの高い空間とすると共に、エイジングにより味わいが出る「萩焼」のような建築として住み込まれることを期待している。


D.辻堂の家

敷地は、海にほど近い住宅地にあり、海からの反射光のためか街が明るく、健康的な雰囲気の感じられる地域である。住人は夫婦2人である。

住人夫婦にとって、壁で仕切られたような携帯の個室は必要なく、限られた建築面積の中で、いかに開放的で魅力的な生活空間を確保するかがテーマとなった。

本作品は、家全体を「田の字」の明快な平面プランに落とし込み、居間、食堂、寝室といった用途を持つフロアをスパイラル状に展開、重層した住宅としている。

生活行為は、各フロアを螺旋状に上昇下降する事で繰り広げられ、各フロアの持つレベル差によって夫婦はお互いの距離を緩やかに調節する。

透過性のあるテント記事を屋根とすることで、螺旋状につながった内部空間全体が柔らかな光に包まれた明るい健康的な空間となるよう意図している。

杉板をスパイラル状に巻き付けた中央コア部分は、うすい皮膜の屋根を突き抜けて露出し、江ノ島、富士山を望む屋上テラスに至ることができる。


建築家とまちづくりのなかまたち 2012年4月 (日本建築家協会 関東甲信越支部中央地域会 編著)
↑
つぶやく