スパイラルウォールの家


スパイラルウォールの家

○周辺環境、与条件等
スパイラルウォールの家は、東京郊外に立地する、夫婦2人のための住まいである。周辺は環境の良好な住宅地で、今回の条件であった「ホームシアターのある住まい」を実現するにあたっては、近隣への影響などに多分に配慮する必要性があり、結果として地下に設置することとなった。また、互いに職業を持つカップルの住まいとして、あまり日常的な生活感覚にとらわれない「居心地の良い場所」をつくることがテーマとなった。

○全体の構成
この住宅は、一枚の壁を立体的なスパイラル形態に組み上げた基本形が、空間の骨格になっている。これにより、単調な表現になりがちな3層のマッシブな重層構成に変化を持たせ、形態に動きとそれぞれの階の連続性を持たせることを意図した。

地下(第1層):ホームシアターである。防音性を高め、音と映像を存分に楽しむことができる「精神の解放空間」となることを意図した。天井の高さは音響効果に配慮して4メートルとし、内装はチーク材で統一している。また、音響のコンサルティングは石井伸一郎氏に協力いただいている。

1階(第2層):エントランスホール、並びにそれに続く夫婦のためのプライベートスペースである。また、エントランスホールから2階に上る階段は、吹抜の透明感を強調するために、素材として強化ガラスを用いている。

2階(第3層):外部との連続性を意図的に遮断した地下とは対照的な、外部に対しての開放性が高いリビングスペースである。キャンティレバーで突き出した部分にはキッチンを設けており、その下部は駐車場として利用している。

階段状のサニタリー空間:1階と2階のスパイラルウォールをつなぐ、斜めに上昇していく部分をサニタリー空間としている。空に向かっていく上昇感を持たせながらも、同時に外部からの視線がプロテクトされるような構成を持たせた。また、階段状のスペースのつきあたりには、螺旋階段がありさらに上部の屋上空間へとつながっている。また、衛生器具等の構成要素は、極力形態を主張しないシンプルなものを使用した。

サニタリー空間は通常平面的なプランニングとされる場合が多い。ただし、今回の計画では、この部分を「家の中の別荘」のような、「生活の意識を切り替えるスペース」としての性格を与えるために、あえて非日常性を持たせるべく、立体的なスペースとしている。

○素材
この建物は、コンクリート、石、タイル、鉄、ガラス、木等で構成されている。仕上げを決める段階では、それぞれの素材を、極力「生なり」で、すなわちあまり素材を表層的に使用するのではなく素材が最もその素材らしく表現できる状態で、使用することを重視した。たとえば階段などの鉄部も、塗装仕上げではなく、あえて溶融亜鉛メッキリン酸処理仕上げとし、鉄が本来持つ「力」を表現することを意図している。


INAX REPORT No.167 House&Home
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