湿式工法と乾式工法の組み合わせ
■この工法の可能性
乾式工法と湿式工法を組み合わせること自体は、特に目新しいことではなく、伝統的にも、用いられている工法である。たとえば、羽目板張りと漆喰壁等の左官壁の組合せも、その1つである。古くから、城郭や町家等にもその工法を見ることができる。
湿式工法と、乾式工法を混在させる意味は、「適材適所」ということではないかと思う。すなわち、水掛かり部分かどうか、メンテナンスがしやすい部分かど うか、あるいは、クラックが生じやすい部分かどうか、などのことを考慮して、その部分にそれぞれの工法のもつ特質を生かすことを考えて
乾式工法と湿式工法を組合せた意匠というのは、その対比性や構成の巧みさなどがデザインされることで、大変美しいものであると思う。ただ、それはそれぞれの工法が持つ機能性が特徴を適材適所に発揮されたものとして設計してゆく必要がある。
■事例に学ぶ乾式との組み合わせここで、筆者が住宅地に立地する二世帯住宅である。木造2階建てで、相似形の、田の字型の平面をもつ2棟の住宅を向かい合わせている配置計画とした。中間に中庭をとり、それに面して、それぞれの世帯が大きな開口部を設けている。
■ガルバリウム鋼板のスパンドレル塗り材部分の仕上げは、ラス下地モルタル塗り弾性リシン吹付け仕上げである。また、乾式工法部分は、ガルバリウム鋼鈑のスパンドレルである。
この建物の場合、2つの仕上げを混在させた理由は以下の2つの理由による。
1つは意匠的な理由で、塗り材仕上げのみでは、ともすれば単調になりがちな外壁仕上げに、幾何学的な構成要素を持たせることで、単調さを打ち破ることを 意図している点である。特にアルミサッシなど、既製品を使用する部分は、これにスパンドレルを一体的に連続させることで、カーテンウォール的な表現とする ことが可能となる。このため、スパンドレルは、アルミサッシの近似色を選択した。
もう1つの理由は、外壁モルタル吹付け仕上げ面のクラック対策である。どうしてもモルタル面が大きくなると、木造ならではの構造体の動きに追従しきれず に、またはモルタルの収縮により、クラックが生じる場合が多い。特に開口部周りや、建物の形状が極端に変化する接合部分に、その現象が現れるやすい。今回 のケースでは、中庭に面した大型のサッシ廻りは、その可能性が高い部分である。そのために、サッシ廻りを乾式工法にすることにより、クラックの可能性を解 消することを意図している。
スパンドレル部分の工法乾式工法と湿式工法を組み合わせる場合に、最も留意するべき点は、その取り合い部分である。外壁が防火構造の性能を要求される場合には、防火認定材料を スパンドレルの下地に使用する必要がある。具体的には、所定の耐火時間を満たす性能を持った耐火認定ボードを使用する事になる。モルタル部分の下地は構造 合板ないしラスカットボードとなるので、この取り合い部分の止水が最も注意が必要である。多少下地の厚みが違っていても、防水紙を切れ目なく使用すること が必要になる。表面仕上げについては、吹付け仕上げとガルバリウム鋼鈑の仕上げの取り合い部分は、見切り縁をガルバリウム鋼鈑と同一材料で製作している。 また、サッシが取り合う部分などは、防水面がサッシュに取り合う部分を丁寧にこーキングし、スパンドレルに対して外付けの収まりになるようにサッシュを取 り付ける方が、収まりはよい。スパンドレルは、既製品の寸法があるので、サッシュ寸法を決定するにあたっては、スパンドレルの割付によって決まってくる。
建築知識2004年5月号