設計のすすめかた


設計のすすめかた

(烏山の家 各図面に対してのコメント) 

■スケッチ

最近トレーシングペーパーをほとんど使わなくなってきた.以前であれば,敷地図の上にトレペを敷いて,色鉛筆をだんだん薄いものから濃いものに持ち替えて線を決めて行くという作業が,いわゆるスケッチであった.最近では,最初の段階からスケッチをCAD上で描くことが多くなった.当初何の手がかりのない状態から,とりあえず所定の面積の丸とか四角を描くところから始め,スケッチのレイヤを増やしながらアイデアを発展させ,最終的にダイヤグラム化する.スケッチの命は「スピード」であると思う.手書きスケッチと比べ,CADスケッチはスピードが遅いようにも当初感じていたが,要は慣れの問題ではないだろうか.

特にCADで図面を作成するかどうかは別として,やはり建物のコンセプトを決定する段階であるこのスケッチの段階は,やはり図面の作成過程の中でも,最も重要な部分ではないかと思う.


■プレゼンテーション図面
第一回目の施主プレゼンテーションの図面である.当初の描きためたスケッチレイヤに新しいレイヤを重ねて寸法を入れて図面化してゆく.スケッチの段階で,面積,寸法,通り芯等はほぼ決まっていることが多いので,微調整をしながら,図面を描き進めて行く.平面図,立面図,断面図を同時に描き進め着彩をおこなう.この段階で,3Dの情報を重ね合わせて,ウォークスルーツールにより室内のパースを作成して提示することもあるが,室内のボリュームチェックとしてはかなり有効な手段であると思う.

ただ,やはり施主への説明で,最もインパクトがあり,なおかつ設計者自身にとっても建築の全体像の把握に欠かせないのは模型であると思う.模型はデジタル化と最も対極にある表現方法であるが,やはり,その「手でしか創れない」世界は,設計においてなくてはならない作業のようにも思える.


■設計図

実施設計図の目的は,施工者に対していかに正確な情報を伝え,見積上も,施工上も誤差を減らして行くかということであると思う.ただ,同時に施主に「絵」として見せる事も重要なことで,これは本来表裏一体のものではないかと思う.手書きで図面を描いていた頃は,青焼きに色鉛筆で色を塗ったり,あるいは極端な場合,プレゼンテーション用の図面を新たに描き起こしたりしていたが,CADの設計図に着色をし,雰囲気を出すことで,実施設計図と,プレゼンテーション図面の距離は,大分縮める事が可能ではないか.施主に対して説明的な図面は,やはり施工者にとっても「見やすい」ものではないだろうか.実施図面といえども,「絵」にしてゆくことは,われわれの常に意識するところである.

また,実施設計は,設計作業の中で最も時間を要する部分である.徐々に,図面はその姿を変え,情報量が増えて行くものだと思うが,極端ないい方をすれば,そのどの段階においても,常に「完成品」であることが重要であると思う.理想かもしれないが,いつ打合せがあってもある段階の「完成品」を提示できるような図面の描き方を心がけたいと考えている.


■総合図

住宅のスケールの仕事の場合,極端ないい方をすれば,図面は枚数が少ないほど理解しやすい.これは,決して手を抜くということではなく,情報を整理して提示する方法の問題であると思う.ひとつの図面にさまざまな情報を重ね合わせることで,情報の相互関係が確認でき,図面同士による食い違いを防ぐ事が可能であると思う.我々の事務所の場合,平面図をベースに,設備,仕上等の情報をなるべく描き込み「総合図」を作成するのが,図面の最終段階ではないかと考えている.施工者,施主,関連業者等にオールマイティに通用する図面を作成し,カラー出力をして行き渡らせるようにすることが,それぞれの認識のずれを最小限に抑えるのではないだろうか.

図面上の情報量は増えて行くので,見やすいものにしてゆくためには,スケールはアップされなければならないと思う.住宅の総合図の場合は,実際に出力されるのは1:30程度の場合が多い.ただ,CADの図面にはそもそも縮尺の意識というのは希薄で,CAD上で作図する場合は,すべて「原寸」が意識される.
その意味で,やはりCAD図面がリアリティーを持つためには,「原寸」が納まっている必要があるのだと思う.


建築の設計図は,配置図,平面図に始まり,立面図,断面図,矩計図,展開図,設備図といった一定の決まり事で作成されることがほとんどである.その図面の区分けの方法は,見慣れている方法で描かれることも重要ではあると思うが,別のやり方があってもよいのではないかとも考えている.

CADならではのレイヤを重ねてゆき,情報量を増やすことが可能な状況の中では,建築,設備,備品,造園といった図面同士の垣根が取り去られる必要があるのではないかと思う.


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